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首都ハイデルベルグへ向かう途中で、ルーティが並んで先陣を切り歩く2人を見て顔をしかめた。
そんなルーティの様子に気付くと、マリーも前方の2人に目をやる。長くかからない内にその異変に気付くと、はっと息を詰まらせた。
「ウッドロウ、お前・・・」
背後の声に、情けないという風に肩を竦めてから、前で片足を引きずる様にして歩いていたウッドロウと肩を落としているチェルシーが振り返った。
チェルシーは申し訳なさ気に身を縮めながら、小弓を持つ手に力を込める。
「前の戦いで負傷していたならすぐに言えっ!今アイテムを・・・」
マリーの言葉に、首をかしげていたスタンがやっと理解したという風に彼女からウッドロウの方に向き直る。
慌ててリオンの方へ目線を移すマリーだが、リオンは別段どうともしない様子で、黙ったまま既に空になった道具袋を広げ、ひっくり返して見せた。
「ウッドロウさんっ、大丈夫ですか?!」
そう言って彼の足の怪我と顔色を順々に伺うスタンを尻目に、ルーティが溜め息をついてから口を開く。
「ハイデルベルグはすぐそこだから、それまでウッドロウには下がっててもらいましょ。着いたら宿に行く前に、道具屋にも寄らなきゃね。」
チェルシーはウッドロウを労るように彼の片腕に手を添える。
その様子を眺めていたフィリアが、耐えかねたように一歩乗り出した。
「何故今まで黙ってらしたんですか?心配をかけたくないという気持ちも解りますけれど・・・でももしそれがどこかで支障となってしまったら・・・」
「・・・ああ、次からは気を付けよう。」
徐々に声を細めていくフィリアの様子に参りながら、ウッドロウが再び肩を竦める。
黙ってそれを眺めていたルーティが、ウッドロウの影で小さくなっているチェルシーを見つけるなり、おもむろに彼女に歩み寄った。
「あんたも本当にウッドロウを心配するんなら、例え口止めされても報告すんのよ。」
ルーティと目が合う。すぐにその視線を逸らすと、ウッドロウの背後からもう少し顔を覗かせて、チェルシーが頷いた。
=白い逆行想起=
「どうして僕がそんなこと・・・!」
暖炉を目前にする机に並べられた椅子の片隅に一人腰かけていたリオンが、目の前に立ち塞がるルーティを睨み付けた。
一行はあの後、なんとか無事にハイデルベルグに到着したものの、寒さと疲労のため宿に足を運ぶので精一杯だった。
暗黙の了解で自由行動時間をもうけられ、皆がそれぞれ休息を嗜んでいる筈だった。
しかし思い出した様に談話室に顔を出し、道具袋を持っていた彼に道具の買い足しを頼んできたルーティを相手に、リオンは不機嫌そのものだった。
自分で行くか他を当たれと言わんばかりのリオンの態度にルーティがどうしようかと腰に手を当てたとき、手洗いから部屋に戻る途中で立ち寄ったのか、スタンが奥の階段から降りてきて顔を覗かせた。
「いやぁ、腹減ったなぁ。二人がここに居るってことは、もうすぐで・・・」
暢気にへらへら笑いながら、夕食なのかと続けて問おうとしたスタンを「丁度良かった。」と言って引っ張って来させると、一瞬怪しい視線をリオンに送ってから、ルーティは再びスタンに向き直った。
「ねぇスタン、こういう重労働は女には向かないと思って、あんたにも頼もうと思ってたんだけどさ。道具が全部底付いてんの、知ってるでしょ?リオンに頼んでみたんだけど、こいつどこぞの坊っちゃんだから買い物の仕方が解らない上、ナイフとフォークより重いもの持ったこと無いらしくって・・・」
「なっ、貴様・・・っ!」
「だから買い足しも含めて教えてやって欲しいの。いいわよね?」
あからさまに何か文句を言いたげなリオンには気付かず、スタンは快く引き受けると、「出来ないことがあるのは恥ずかしい事じゃないんだぞ。」とか、「間違えたりしたら大変だもんな。」とか付け足している。
挽回する気も失せて、リオンが腕を組んだまま面倒臭そうに俯いた。その所作をどうと取ったのか、ルーティは「決まりね。」とスタンの背を押すと、リオンに小さく折畳まれた買物リストを押しつけた。
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「やっぱり寒いな〜・・・っ!」
宿を一歩出たばかりで、スタンが足を止め、身震いしながら縮こまった。
空は相変わらずの曇り空で、雪こそは降っている訳ではないのだが、それを錯覚してしまうのではないかという程夕刻にしては暗く、重ねて寒かった。
宿にて芯まで温まった状態で如実に外気に触れると、不思議とハイデルベルグに着く前よりも冷たさを感じた。
スタンが足を止めた理由も、リオンにはよく解った。しかしだからこそ、早くに用事を済ませて宿に戻ってしまいたい。マントを小さく翻すと、何も言わずに通りの方へと足を進めた。
苛々しながら足早に歩いて行ってしまうリオンを追いかけるように少し走れば、スタンはすぐに彼に追いついた。歩調を合わせながら、のんびり一歩後ろを追いかける。
すぐ行ってすぐ帰れば、そんなに時間なんてかからない。リオンはスタンの気遣いなどどうでもいいと言うように、なるべく速めに歩を進めて行った。
「リオン、危ないぞ。」
背後のその声と共に、リオンの左腕が一回り大きい手に掴まれ、引き寄せられる。
軽い力でされたのだろうそれはリオンにしては強すぎ、勢いでスタンの胸へとぶつかっていってしまった。
突然の事に文句のひとつやふたつでも言わなければ気がすまないと思い、不可抗力で飛び込んだ胸から勢いよく顔を上げ抗議しようとしたが、自分のすぐ後ろを駆け抜く誰かの足音との距離の狭さに驚き、再び口を噤んだ。
通り過ぎたそれを目で追うと、自分たちが来た道を反対方向に走り、宿へと駆け入っていく少年が見えた。
その一連を2人で眺め終わると、スタンがすぐにリオンの腕から手を離し、リオンも思い出したようにスタン突き離して距離を取った。
ふん、と息をつくと、感謝の言葉を述べるでもなく、曲がる事に失敗した角を、次はしっかりと右に曲がる。
特に礼を求めるでもなく、角を曲がるリオンを眺めてから、スタンも急いで追い掛けた。
大通りの隅を、リオンを内側に寄せるようにしてスタンが隣を歩く。
さっきから、まるで弟か子供にでも接するような彼の対応に、少々余計な御世話だと言わんばかりの苛立ちを覚えつつ、リオンは十字路までのしばらくを歩いた。
「にしてもリオンとこうして2人でいるなんて、なんだか珍しいなぁ。」
へらへらと笑いながらリオンを見下ろす。どうでも良さ気にいつものように無視したが、スタンは気にせず続けた。
「こういう場所にくると、やっぱり故郷が恋しくなるな。はじめは雪も楽しかったんだけど、なーんか段々飽きてきちゃって・・・。」
広場に出ると道具屋がすぐに見える。確かに話を聞いてこそはいたが、面倒なので聞いていないふりをした。
その様子に気付くとスタンは残念そうに口を噤み、前へ向きなおり道具屋へ一直線に並んで歩いた。
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「持てるか?リオン。」
瓶や薬品がいっぱいに入った紙袋を、スタンは2つ、リオンは1つ、計3つ抱えて道具屋を少し離れる。
スタンが軽々しく抱える反面、リオンは両腕でひとつをやっと胸に抱き、「子供扱いするな。」と言いたくなる衝動を抑え、宿に向かって歩きはじめる事で大丈夫だという意思表示をした。
広場を抜けて、大通りを来た時と反対に歩く。人影もまばらになってきたそこで、リオンが溜め息をひとつついた。白くなった息を目で追いかけると、ふいに背後のスタンと目が合った。
スタンが気遣うように笑う。宿への曲がり角を曲がりながら慌てて目を逸らそうとすると、急に視界がぐらりと揺れた。
角で足を滑らせたのだと解ったのは、鈍い音と共に後頭部を冷えた地面に打ち付けた直後だった。
「リオン!」と叫びながらスタンは抱えていた2つの紙袋を放り投げ、咄嗟に駆け寄った。背後で瓶が破損する音が聞えたが、そんなのはどうでも良かった。
「リオン、大丈夫か?」
しゃがみ込んで、リオンを起こす。リオンも素直にスタンの手を借りながら、後頭部の痛みに耐えつつなんとか半身を起き上がらせた。そのままスタンの腕を掴んで立ち上がろうとする。
「・・・っ!」
支えの手を緩めていたスタンの腕へ、再びリオンの体重がかかった。
足首に激痛が走り、立ち上がる事ができない。捻挫だろうかと察するとスタンは手を離し、リオンに背を向けてしゃがみ込んだ。
「ほら。」とスタンが自らの背へとリオンを促す。スタンが自分を背負おうとしていることにすぐに気付くと、リオンはスタンに向けてやっと口を開いた。
「そんな情けはいいっ!それよりどうするんだ!僕が抱えていたひとつだけならまだしも、貴様まで袋を落としてはまた買い直すはめになるだろう!」
ひとつ、ふたつと並んで地面に横たわる紙袋を眺めてから、スタンに再び向き直る。
紙袋からは割れた瓶から漏れた液体だろう、地面と雪を濡らし、変色させている。きっと袋の中の薬品はすべて、この色に染まってしまっているのだろう。
スタンもそれを目にし、やっと事の重大さに気づきはっとしたが、ゆるく首を振ると再びリオンの方へと声をあげた。
「それよりも今はリオンだろ!早く後ろに乗るんだっ。」
「宿は目の前だ!これくらい自分で・・・」
「いいから!」
そこでリオンがはっとして、昼の出来事、フィリアの言葉を思い出す。
『心配をかけたくないという気持ちも解りますけれど・・・でももしそれがどこかで支障となってしまったら・・・』
勿論、自分の場合そんな理由の為にプライドまで犠牲にしない、自己管理くらいできるから、どこかで支障になんて、絶対にならない。
ただ、こいつは言ったら聞かない性格だから・・・。
そう自分に言い聞かせて、リオンは渋々スタンの背に身を預けた。
立ち上がってリオンを背負い直すと、スタンは急いで目の前の宿へと駆け寄った。
その間、リオンはスタンの首に腕を回したまま大人しく様子を眺める。
密着した体の所為か寒さはかなり和らぎ、腕だけではなく、身体が面するあらゆる部位からスタンの熱を感じた。
金色の後ろ髪が、リオンの頬を撫でる。ふと、当たりの良い仄かな香りが鼻をついた。それがスタンの髪から香る洗髪剤の匂いだとすぐに気付くと、リオンはその髪に顔を埋めた。
首筋にリオンの息がかかる。スタンは扉を目の前にして足を止めてしまい、リオンの密かな変化に戸惑う。
さっき頭を打った所為だろうかと、回らない頭を頑張って回転させた。しかし本人はもうそんな事は、すでに気にも止めていない様子で。
我に返ったように、スタンが慌てて扉に手をかけた。
それに気付いたリオンが、首に回す腕にこれまでにない程の力を込め、「待て。」の合図をする。
苦しさを感じつつリオンの音ない命令を理解すると、急いで手を離した。同時に、リオンも腕の力を緩めた。
寒い地に居るからだろうか、スタンの体温が一気に高騰していくのが解る。
その変化に気付きながら、リオンが更にスタンに額を擦り寄せる。
頬を仄かに染めて呆然と立ち尽くすスタンの腕が少し緩んだ。
リオンが少しだけ背中からずり落ちたが、「よし。」の合図が出るまで、スタンはその場から一歩も動かなかった。
唇が髪を掻き分けて晒されたスタンの首筋に触れるか触れないかの位置で、リオンは「それでいい。」と呟いた。
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ガルドが無駄になったなんて知ったら、ルーティがどれ程怒鳴るか知れない。
ウッドロウの時と同じように宿の主人に薬箱を借りて、談話室の隅でとりあえず足首の手当てをした。
外はあんなに寒かったはずなのに、なぜか衣服の中が汗ばんでいた。暖炉の火がごうごうと燃えるこの部屋はスタンには暑すぎて、すぐにまた外気に触れたくなった。
そのため、薬を塗って湿布を貼るくらいだから、リオンを座らせて薬箱を渡してから、自分はすぐに道具屋へと戻るつもりだった。
しかしリオンがソファの前でしゃがみ込んでいるスタンを見下ろしながら偉そうに腕を組み、片足を突き出している様を見たら、どうやら逃れられそうになくて。
顔色を伺いながらそっと手を添えて、なるべく強い力を加えないようにと、密かに赤く腫れ上がった場所から、薬で濡れた手で丁寧にリオンの足を撫で上げる。
たまに顔を歪ませると、手の力を抜く、それをしばらく繰り返した後薬箱から湿布を取り出すと、急いで、しかし慎重にそれでリオンの足首を包みこんだ。
「はい、多分これで大丈夫だ。」
彼の片足を手に持ったまま見上げて微笑むと、リオンはやはり礼も述べずに、自分の足を相手の手から振りほどくようにし、もう下がれ、と言わんばかりに俯いた。
その様子を見て安心したようにもう一度微笑むと、スタンは足もとから薬箱を持ち上げ、宿の主人に返しに行く。
背後から、主人に親しげにお礼を述べる聞き慣れた声が耳に入る。
今までその声の主に触れられていた足を、ソファの上に乗せて抱えた。
湿布を貼る間際、自分の足首を包みこんだあの手の感触と温もりが、何故だか全く拭えない。
スタンがしたように、自分の足を自らの手で包む。そのまま膝に額を当て、先程から捕われている妙な気持ちに首を傾げる。
宿の主人と話を終えると、スタンはすぐに扉へと振り返った。扉を開ける間際に、さっきあった温もりが今あるもののように蘇る。
勿論錯覚だと解っているため、スタンはソファから覗くリオンの頭にちらりと目をやる。
これは扉を開ける度にあの出来事が思い返されそうだ、と、なんとなく察してから、高まる心臓の鼓動を抑え、少し俯きながら白い町の外を、広場の方に向けて駆け行くのだった。
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Lion/Stan
リオスタでリオン←スタン。
リオンを弟のように扱って甘やかすスタンと、
いつも子供扱いしてくる無意識な仕返しとしてスタンを従わせて優越感を得るリオン。
でもリオン自体はスタンが自分の事を気遣ったり守ろうとしたりすることは悪くないと思ってる。
甘いの書くのが苦手なので、もうどうにでもなってほしい
時間軸なんて考えてませんすみません。