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=ジョナサンのときもそうだった=
「なんだ、もういたのか。」
自分が買い物係として宿を出るまで、談話室の方で他の者達とはしゃいでいた金色をある一室に見つけ、リオンはつい呆れたような声を漏らした。
寝ているのかと疑う程大人しくベッドに横たわるそれは、後ろの声に気付くとゆっくりと起き上がった。
「ああ、リオン・・・おかえり。」
彼にしてはやけに静かなその返答に違和感を感じたものの、起こす時の事を考えると寝ていなくて良かった、という感じがした。
退屈かつ面倒な労働に疲労を覚えた体を休ませようと隣に並ぶベットに腰を下ろす。さっきまで大きな買い物袋を抱えていた手が、内からじんじん響いてくるように痛かった。
それにしても一体こいつはどうしたと言うのか、もっともそれは自分が追及する程の事ではないのは解っているが、いつも自分がどんな態度をとってもへらへら笑っているこいつがこうだと、何かかなり調子が狂う。
しかしながら能天気なこいつの事だ、掘り下げる必要もなかろう。そう思いながら腕を組み、退屈そうにスタンの横顔をしばらくは何を考えるでもなく眺めた。
いつもだったらひっきりなしに色々な事を、笑ったり怒ったり落ち込んだりしながら勝手に話続けてくる相手は、珍しく全く口を開かずに視界を宙に泳がせている。
そういえば黙りこくってこんな顔をしているスタンをまともに見るのは初めてかもしれない。
いつもは仲間だの友達だのとほざいてくる彼も、黙っていると幾分かましな気がしてくる。
こいつはこんな風になる時もあるのかと、少し感心しながらぼんやりと無意識に小さく顔を覗きこんだ。
(一体何を考えているんだ。何がこいつをこうさせる?)
退屈な心は時に、どうでもいい事に捕らわれる。
リオンは普段は気にする必要のない事を追及する事に無意味に沈んでいった。
自分が知らない”スタン”。
もしかしたら自分が全面的に「図々しくて能天気で、馴れ馴れしい奴」だと散々罵り否定してきた相手は、彼の見せるほんの一部分でしかないのかもしれない。
本当は誰よりも鋭く、深く物事を考えていて、実は今までの冒険で、既に何もかも見据えていたのではないか。
いや、もしや誰よりも計算高くて、最初から自分や他の連中を騙して現在も尚利用しているのかもしれない。
今はその為の考察時間なのだろうか。そうだ、自分よりも3つも年上で、身体だってひとまわり大きいのだ、それなりに世間擦れしている可能性なんていくらでもある。
なら何故だ?彼は何のために自分たちを利用している?
そうだ、そもそもセインガルド王国軍の兵士になりたいという理由だけで、ここまで面倒な事をするなんてどうにかしているのだ。守りたい人がいる、などとは、繕った言い訳にすぎぬかもしれない。
図々しくて能天気で、馴れ馴れしい。本当に彼はそうなのか?一体どういうつもりなのだろう?
一瞬の退屈の持て余しは、次第にリオンの心を侵食していった。
徐々に表情を険しいものに変えていきながら、リオンは組んでいた腕に力を込めた。
「貴様・・・何を考えている・・・?」
無意味にこんな奴に利用されるなんて御免だと本能が音を上げ、無意識に出てきた言葉はそれだった。
スタンはびくりと身を震わせると、思いだしたように慌ててリオンの方に頭を向けた。大きく見開かれた目と丁度目が合う。そんなスタンを、リオンは鋭い目で見上げ、睨み続ける。
青色の瞳を揺らしながら、また目を伏せる。深く溜め息をつくと、リオンと向かい合わせになるようにそのままベットの端に腰かける。
靴先を眺めながら肩を落とす、あまりのじれったさに、リオンは腰の短剣に手をかけた。
「答えろ、どういうつもりだ。」
座ったまま少し身構え、詰め寄ってきたリオンに、スタンは驚いたように再び顔をあげ、リオンの鋭い目を見下ろした。
経つ事数秒でスタンはまた俯く、その態度に急速に頭に血が上り、スタンに掴みかかろうとした手前だった。
「ジョナサンだよ・・・。」
「・・・は?」
心配気に眉をひそめ、苦笑しながらスタンが発した言葉に、リオンは気の抜けたような声を漏らした。
リオンの開いた口が塞がらないうちに、スタンは続けた。
「いつか話したと思うんだけどさ、俺、家出同然で飛び出して来たから・・・今頃じっちゃんが面倒見てくれてると思うんだけど・・・ああ、でも俺がいなくて寂しい思いしてんだろうなぁ・・・。」
俺に一番なついてたんだぞ、と嬉しそうに続けるスタンを見て、リオンは身構えて浮かせていたままだった腰を、情けなさそうに元の位置に下ろした。
まあ、それもそうだよな。リオンは心中で自分に言い聞かせ納得しながら、がくりと項垂れた。
元々、図々しくて能天気で馴れ馴れしいこいつが、深く物事を考えられるわけがないのだ。と言うのは少し大袈裟かも知れないが、それ程能天気だと身を持って知っているのは自分自身だった筈だ。
これまでに無い程真面目な顔をして故郷の羊の話をするスタンから目を逸らし、リオンは腕を組んで心底どうでも良さそうに聞き流しながら、自分の退屈な思考回路に心中で恥じ入る。
急激に疲れたような気がして、部屋を出ようと目論み立ち上がろうとした。
「でもさ、ジョナサンには悪いんだけど、俺はなんだか全然寂しくないんだよなあ・・・皆がいるっていうのもあるんだけど・・・。」
考え込むように首を傾げたが、すぐにいつもの笑顔で口を開き直す。
「リオンがいるからかな?」
既に立ち上がり、部屋を後にしようと2、3歩、歩を進めたリオンがぴたりと動きを止めた。少し揺るいだ自身の感情には気付かず、またいつもの面倒な話が始まったと呆れて溜め息をつく。
どうせこの後に続くのは友達だとか仲間だとか、そんなくだらない言葉ばかりなのだ。
背後の彼の頭の悪さに呆れながら、頭を抱えようとした、その時だった。
「リオンって、ジョナサンにそっくりなんだ。」
何の気なしに放たれた予想外なその言葉に、リオンが硬直した。
冷め始めた状況に気付くわけもなく、スタンは満面の笑顔で話し続ける。
「リオンと話してるとさ、俺が羊飼いを始めたばかりの事を思い出すんだ。」
会ったばかりの時はジョナサンも見向きもしてくれなかった。
しかしそれでも諦めずに接した結果、ジョナサンが自分になついてくれるようになったのだと、スタンは嬉しそうに話した。
「だからさ、リオンと一緒にいると、頑張ってジョナサンと友達になろうとしてた時の事を思い出すんだよ。」
微かに変わる表情は、見ている者を飽きさせない。もっとも、背を向けているリオンにはそんなものは見えていないのだが、声調で細かい表情の変化までもが、手にとるように解った。
羊と同類にされた屈辱と、相手が自分を大切に思ってくれている事に対する深層意識の喜びが、リオンを複雑な気持ちにさせる。
そっと肩を落とす、どうしようか迷っていると、スタンはさっきとは違う、落ち着いた小さな声で呟いた。
「落ち込んだりしてるとさ、俺にすりよって慰めてくれるんだ。今さっきだってさ、リオンも考え事してた俺を心配して、声をかけて来てくれたろ、だからさ・・・。」
思い出して、凄く嬉しかったんだ。
そう続けようとした口は、現状に対する驚きの所為でつぐまれてしまう。
あのリオンが、座ったままのスタンに圧しかかるようにして身を収めた。額を丁度彼の胸の辺りに付いており、自ら身体を支えよう等とは微塵も思ってない様子だ。
一方スタンはのし掛かった軽い重みに目を丸くし、後ろに倒れてしまわない様に手をベッドの端に沈んでいる自身の両脇に置き、身体を支えた。
リオンはスタンの言葉の通り、スタンに元気がないと悟って心配になり、声をかけたわけでは勿論ない。
本当につくづくめでたい奴だと、底にある感情が声をたてずに笑った。同時に深入りした妄想でスタンという人間を歪めた上、結局はスタンの話す羊と同じ事をしている自分を心底嘲笑う。
「やっぱり、ジョナサンみたいだな。」
無邪気にそういうのが、今では不愉快極まりない。
よく知らないが、自分はその羊とは違う。
どうしようもなくそれを見せしめてやりたい、しかし上手く事を運べない現状が悔しくて、リオンは顔を見せない状態のまま唇を噛みしめ、彼の胸の鎧に這わせていた手に無意識に力を込め、爪をたてた。
「リオン?」
黙りこくっている相手を不思議に思って顔を覗き込もうとするが、見えるのは黒い頭の天辺だけだった。
様子を伺うスタンに対して、リオンは更に俯く。
今日はどうもついてないらしい。あの守銭奴に買い物に追い出されるわ、変な妄想で恥をかくわ、揚げ句に臆病でのろまな羊なんかと同類にされ、現在にまで至る。
しばらくその状態のまま寄り添い続ける。はたから見ると兄弟同然のそれは、少年から滲み出る憎悪的感情の所為で平和な光景とは結びつけ難い。
自分から「ジョナサンみたい」だと言っておいて、いざ今となると意外な現状に戸惑い、どうなるのだろうかと不安を募らせるスタンと、どう仕返してやろうかと企むリオン。沈黙が続き、屈辱のやり場が見つからないリオンが相手の鎧に更に爪を立てた時、規則的で小さな音が耳の近くを通りすぎた。
心中で首を傾げて、鎧に当てがっていた額を少し離し、次に片耳を近付ける。
徐々に間隔が速まっていくその音がスタンの鼓動だと気づくまで時間はかからなかった。目だけを覗かせるように少しだけ見上げると、緊張に強張った面持ちで俯くスタンが目に入った。
リオンが何かひらめいたと言わんばかりに口元を歪ませる。
スタンの胸から頭を離す、やっと退くのだろうかとスタンも顔を上げたが、リオンは彼に顔が見えるか見えないかの内にスタンの髪を掻き分け、その首元に顔を埋めたかと思えば、耳の後ろ辺りに唇を落とした。
その瞬間、把握出来ず少し驚いたスタンだったが、いつの間に解り合えたのかと勝手に解釈すると、くすぐったいと声を立てて笑った。
本当に能天気な奴だ、今でもなお身の危険なんて感じていない。それもそうだ、田舎という平和な空間なんかで羊を相手に馴れ合ってきた奴なのだから。
でも、僕は違う。必ずこの僕を苛立たせた事を後悔させてやる。全然理不尽なんかじゃない。
リオンはそう心中で企むと、這わせていた唇を喉元へ、肩口へと移動させていく。
服越しにでも伝うその感触と微かな生暖かさに、スタンはよく解らない感覚を覚えた。
「うわぁっ!?」
丁度鎖骨の辺りに差し掛かったとき、スタンが慣れない感覚の所為か背筋に寒気を感じ、鳥肌が立つ感覚と共に肩を震わせると突然大声をあげ、上に重なるリオンを全力で突き飛ばした。
一方のリオンは突然身体に走った衝撃に抵抗できる筈もなく、ぐらりと勝手に移動していく視界にをどうにかしようと腕を伸ばすが、手は呆気なく宙をかいたまま、結局は後ろに落ちていってしまった。
リオンの相手に比べ小柄な身体は、簡単に鈍い音を立てて床に打ち付けられた。尻餅をついた少年は一瞬顔を歪ませたが、すぐに青年の方に向き直ったと思うと、いつもより一層不服そうに睨み付ける。
その瞬間、やっとスタンが状況のまずさを理解する、もっとも彼が怒っているのは「自分が突き飛ばしたため」としか察しておらず、現在のリオンの心情など、どんなにかかっても理解できそうにない。
「リオンっ、大丈夫か?!ごめん、俺、なんかびっくりして・・・。」
罪悪感が押し寄せる、慌てて立ち上がり、目の前の少年に手を貸そうと屈み込もうとした。
しかし手が伸ばされる寸でのところで、リオンに素早く足を掛けられ、スタンも奇声をあげながら盛大に床に尻餅をついた。
じんじんと痛む腰を手で擦る。謝ったのにその対応は酷いのではないかとリオンに抗議をしようとしたが、既に立ち上がってこちらを見下ろす相手のあからさまな不機嫌さに、スタンは思わず開きかけた口を閉じて息をのんだ。
リオンがスタンの胸を踏みつける。小さく喉から悲鳴をあげ、身動きがとれなくなったスタンを嘲る様に見下し、小さく呟いた。
「貴様、またも僕に恥をかかせるとは、さぞいい気分だろうな。」
彼の言動に、なんとなく自分が突き飛ばしたのが決め手になっただけ、という事は察せたが、それ以前に気に障る事をした覚えはまったくない。
スタンはただリオンを見上げるしかなかった。リオンの片足に体重がかけられ、スタンがまた呻き声を上げた。
リオンの中で何か晴れかけるのが解る、しかしまだ足りないそれは、リオンの感情を蝕んだ。
ふと、目線を更に下に落して口角を上げた。リオンの足が胸から離れスタンが微かに安堵しかけた時、直後に彼が強く踏みつけたのは、スタンが無防備に開いていた両脚の付け根のそれだった。
「ぐああぁっ?!!」
突然襲ってきた自身への激痛にびくりと肩を震わせ、悲鳴を上げながらリオンの足先を大きく見開いた目で追う。ぐりぐりと更に力を加えるリオンが笑みを深める、何故こんなことをするのか理解できず助けを乞おうとするが、リオンの顔さえ見上げる事が出来なかった。
「う、ぐ・・・っ」
苦しそうに頭を抱えて俯く、奥歯を噛みしめながら必死にその痛みに耐え、この状態をどうすればいいのか回らない思考を巡らせた。
ほとんど顔を覆っていた両手をやっと頭から離してみると、その手でリオンの足首を力強く掴んだ。
ここまで来れば戸惑う事なんてない、そのまま更に力を込め、リオンの足を力任せに退かそうとする。
(あぁ、でも・・・やっぱり駄目だ・・・。)
ここで無理して足を引き剥がしたら、リオンがバランスを崩して倒れてしまうかもしれない。さっきは腰を打っただけで済んだが、次こそ何処か大怪我でもしてしまったら・・・。
諦めた様に手を離したスタンに、リオンは首を傾げる。
彼程の力なら、たった今の状態において抗う事などできたはずだ。しばらく力を緩めながら考えたが、そうかからない内に「いつものお人好し」なのだと気付くと、軽く転がすように動かしていた右足に再び力を込めた。
そういうところに腹が立つんだ、と独り言のように呟き、悲鳴をあげたスタンを憎々し気に睨んだ。強い刺激を与え続けられ、スタンは喉が嗄れるのではないかと言う程ひっきりなしに叫び続ける。
自分に恥辱を味あわせた本人が、今では自分の下で苦しんでいる。リオンはそれだけで何故か、ぞくぞくとする感覚を覚えた。心中で、愚かなものだと嘲笑う。
しかしじきにスタンの悲鳴が途切れ途切れになってくると、不愉快そうにしながら徐々に力を加えてゆく。
やがて相手が苦しそうに不規則な呼吸と微かな呻きを繰り返す様になると、仕方がないから力を緩めてやった。だが一向にその仕打ちをやめるつもりは無いようだ。
俯くスタンの表情を眺めると、リオンはやっとスタンの異変に気付いた。
19歳とは思えない、情けない顔だ。すぐに足もとの感触の不自然さに目をやると、既に反応しかけているスタンのそれが目に入る。思わず息を飲み、目を見張った。
「貴様・・・もしやこんな事で・・・っ?!」
こんな現状に出くわした事は今までに流石に無い。互いに目を逸らして情けなさを悔いる。思わずリオンがスタン自身から靴の踵を離した。
やっと乱れた息を整えようと、スタンが深呼吸を繰り返す。合間を縫って言葉を紡ぎ、リオンによく解らないまま謝罪の言葉を言い聞かせる。
「リオン・・・さっきは、ごめ・・・」
絞り出すように出す語尾は徐々に小さくなっていく。
こんな時、どうしていいのか解らずリオンが混乱する。相手がこいつだからだろうか、少し心が揺れ動き罪悪感に苛まれた気がしたが、そんなことはあるはずがないとその感情を振り払うと、再び踵でスタン自身を踏みつけた。
口でならなんとでも言える。反省でなく後悔をしろ、こうなったわけを理解して悔やめ。
「うっ、あぁ・・・っ。」
いつもより少し鼻にかかった声、寝言でも言っているのかと疑うが、意識のない相手はこんなにも頬を染めないし、こんなにも瞳を揺らさない。
逃げた気に腰を引く姿は、見下ろすこちらからはもう変態としか言いようがない。
「相当気に入ったみたいじゃないか。」
罵声を浴びせられ、スタンが唇を噛みしめた。否定をしたいが、自分を襲う痛みに似たこれをなんといっていいか解らない。
揉みしだく様にリオンの足が緩く円を描く。電流が走るように麻痺する身体が、無意識に震えて気持ち悪い。
それなのに、こんなに苦しいのに涙なんて出てこない。頑張ってしようと思えば出来るのに、相手の方が心配で本気で抵抗だって出来ない。こんなに自分を情けないと思った事は今までにだって無かった。
あるとは知ってたとしても、具体的な行為内容も、こんな感覚も今までに知らなかったし、リオンだってこんな行為に関わった事が無かったはずだ。
こういう時に教養の差が目に見えるのかと、スタンは額に添えている手に力を込めた。
「離、せ・・・・リオン・・・っ!」
完全に反応しきった自分のそれに足を這わせられている光景から、やっと目を離してきつく瞳を閉じた。再び必死に腰を引いて反抗しようとする。
しかしその度変に擦れてしまうのに身体が反応してしまい、微かに腰が浮いてしまう。力を抜いて腰を下ろすと、結局は元の状態に戻ってしまっていた。
「随分と盛り上がっているようだが。」
置いて行かれてるような感覚に退屈しながら、蔑むような冷たい視線をスタンに送った。
滲んだ瞳は余裕が無さそうに、恥入っているようにこちらを見ない。必死に喘ぐ声を押さえながら、自身と重なっている足の動きに敏感に反応する。
膨張しきったそれが脈打っているのが、服越しに、靴越しにさえ解るようだった。
しばらくは苦しそうに息を乱す相手を見て嘲るように笑えたものだが、段々とリオンは表情をなくしていく。
「飽きた。」
落ち着き払った声で小さく呟くと、面倒臭そうに片足に力を込める。
さっさと済ませようと乱暴に、しかし顔色を密かに伺いながら足を沈めると、スタンの足がびくんと跳ねた。
「ああぁっ、あ・・・うぐ・・・っ」
「そろそろか。」
「な、何・・・?」
スタンが小刻みに震えながら、やっとリオンを片目で見上げた。目が合うと、リオンはすぐに逸らして自分の靴先を見つめる。
もうつまらなくなってしまったし、自分がこんなことをしててもなんの利も無いのだが、どうやらこいつは何も知らないようだし、足でこんな風にされるのを相当気に入ったようなので、とりあえず一区切りはつけてやる事にした。
微かにスタンが表情を歪める部分を集中的に擦り続ける。その度に呼吸を乱して喘ぎ、酸素を求めるように口を開くスタンを眺めながら、さらに追い打ちをかけていった。
息が詰まって呼吸も上手くいかない。はぁ、はぁ、と必死に大きく深呼吸をして整えようとするが全く酷くなる一方だし、同時に変な声まで漏れてしまう。
リオンが踏みつけてる所から何故か身体がとても熱くなっていくし、今日はそんなに暖かくないのに汗だってびっしょり掻いている。
靴底が這わされている部分には、何か粘着質な物が下着にこびりついて気持ち悪い感触がする上に、服のその部分にだけ不自然にしわが寄っていて気恥ずかしい。
それでも今までに見た事がないくらい主張をしているそれの処理をどうしていいか解らないし、リオンだって早くこの状態をどうにかしようと考えてくれているのかもしれない。
むしろここまでくると放っておいた方が良い気もするが、息苦しくておさまりが聞かないし、そうもさせてくれないのだろう。それにもしも放っておいて病気になんてかかってしまったらと想像を巡らせると、ぞっとする。
「はぁっ、リオ・・・っ、ああっ・・・」
必死で声を抑えるが、吐息と一緒に漏れてしまう。
ふと湖で沈み、死にかけた時を思い出す。自分はもしや、このまま酸素が足りなくなって死んでしまうのではないだろうか?
今まで揺らいでいた瞳から、ついに雫が零れおちた。視界がぼやける、やはりこれも、あの時と一緒なのだ。
「リオン・・・リオ、ン・・・っ!」
霞んだ瞳の中で、必死に天井の方に手を伸ばし、目の前の人物に助けを求めた。
上手く呼吸ができない、自分は、死ぬのだろうか。
「ここだ、スタン。」
少し屈みこんで、伸ばされた手を片手で包むようにして握ってやると、それに応えるように微かに力なく握り返される。
予想していたよりも熱を帯びた手、表情を変えぬままスタンの呼びかけに答えると、虚ろに自分に向けていた目を、安心したように閉じた。
―仕方無いから、今は惨めなお前に同情してやる。
リオンがとどめをさすように踵で擦り上げる、その瞬間、ぶるりとスタンが体を跳ねさせた。離れてしまわないように、手を一層強く握りあう。
溜めこんだ息を吐き出し、耐えていた声を漏らしながら、スタンは呆気なく下着の中で熱を吐き出した。
===
スタンの様子が落ち着いたころには、とっくのとうに部屋にリオンの姿はなかった。
部屋に一人残されたスタンが、珍しく不機嫌そうに不貞腐れている。
既に服はもう着替えられていて、重苦しい鎧はベッドの足もとに放られてしまったようだ。ベッドの上に座り込みながら枕を胸に抱き、顔を埋めた。
先刻の、冷たいリオンの表情を思い返す。普段向けられるもの以上の、自分を嘲るような視線。
慣れていたつもりが戸惑った。後には表情が無くなった相手に、仲間としてさえ、見捨てられたと思った。
けれど、手を伸ばした時に優しく包み込んでくれたリオンの手、静かに応えた声。
それを聞いた時、やはりリオンは自分の事を慕ってくれているのだと実感した。
やっぱり、諦めなければリオンはきっと仲間だと認めてくれる。親友だと思ってくれる。そう感じたのだ。
「やっぱり、リオンってジョナサンにそっくりだ。」
違う、なんて言わせない。ぶすっとしながら枕を握りしめる。
胸に抱くそれを故郷の友達と重ねながら、「だろ、ジョナサン。」と暢気に話しかける。
壁の外で扉に寄りかかりながら頭を抱えていたリオンが、今までの自分の行動に後悔の念を抱く。
心底今日は本当についてないが、情緒に動いた行動を冷静に考えてみたものの、
扉の内側から聞えたスタンの戯言に、再びがくりと項垂れた。
===
Lion/Stan
なんかもう無意味にだらだらしていて申し訳ない、書きたかったものを一気に詰め込んだせいでごちゃごちゃですね・・・
読んでくださった方、長々と有難うございました。